Puska-The Grand Minister #2 カニカマプール
「カニカマプールができるらしいぞ!」
「カニカマプール!?すごい楽しみ!」
「さすが大臣。分かってらっしゃる」
カニカマのプール…?
私がプースカ大臣へ謁見すべく思案を重ねていたころ、往来ではこんな話が交わされていた。
私はごく自然な態度で街ゆく人々の群れに加わった。
「カニカマのプールなんて最高ですね!いやあ楽しみだなあ!あなたもそう思うでしょ?」
私は顔も名前も知らない相手にその場のノリに合わせて話しかけてみた。
「あんたもそう思うかい!?楽しみなんてもんじゃないよ!興奮して夜も寝られないぐらいさ!」
「私もそうですよ!いやあ早く入ってみたいなあ!」
その瞬間だった。
私が話しかけた相手も通り過ぎる人々も一斉に声を止め、無表情で私を見つめた。
無数の瞳に侮蔑と嫌悪が混ざり切っている。
身の危険を感じるほどの静寂が私を取り囲んでいた。
「え?いや…あの…私何かおかしなこと言いましたか?」
無数の瞳の色は変わらない。
まるで秘密警察の前で国家への不満を口にしたごとく、強烈な緊張感があたりを包んでいる。
すると一人の男がすっと私のそばへ寄り静かにそして重々しく口を開いた。
「おい、あんた異国の人だろう?早くこの場から去るんだ」
「いや…あの…私何かしましたか?」
「カニカマプールに入りたいなんて言うからだ。さあ早く」
「入りたいって言ってはいけないのですか?
「当たり前だろ!気がおかしくなったのか?さあ早く去れ!」
そうしてその男は足早に去っていった。
まるでトラブルに巻き込まれるのはごめんだといった具合に。
異常な雰囲気であることは間違いない。
今まで滞在してきて牧歌的、平和的だったプースカ侯国が一瞬にしてスラム街と化している。
一触即発。
誰かが動けば大暴動が起きる。そんな雰囲気だ。
私は自分でも間抜けだと思うほどの薄ら笑いを浮かべながら素早くその場を去った。
急いで宿に向かった。自分でも驚くほどその足取りは速かった。
背中には灰色の無数の邪気が刺さっている。本能が告げる。
「一秒でも早く立ち去らなければいけない」
何が起きるかは分からないが得体のしれない切迫感のみが私の足を動かしていた。
宿に戻りベッドに腰掛ける。
大粒の汗が流れ、血管は素早く収縮を繰り返す。
私が今置かれていた状況はおそらく相当危険なものだったのだ。私の体がそう物語っている。
思いがけず虎の尾を踏んだ、そんなところだったのかもしれない。
深呼吸し自分を落ち着かせながら、今の出来事を冷静に思い起こしてみた。
分かっていることは以下。
1 カニカマプールはとても喜ばしい
2 国民は待ち望んでいる
3 プースカ大臣のカリスマ
この三つまでは確かだ。カニカマプールと呼ばれるものがどんなものなのか、想像もできないが。
問題は4。
1 カニカマプールには入ってはいけない。または入るものではない
2 入ると口にしただけで身の危険を感じるほどの疎外感
私はカニカマプールという存在について考えてみる。
1 プールといってもいわゆる水に浸るような性質のものではない。一種の比喩
2 プールはプールだが国民が入るものではない
3 何かしらの概念体系を指している
この三つのどれかではないだろうか?
私はプールと言われ、つい常識的にあのプールを思い浮かべてしまった。水を張り、皆が水に身を預ける夏の風物詩。
この時私は大切なことを忘れていたことに気づいた。
そうここはプースカ侯国、一般常識で測ってはいけないのだ。
カニカマプールと呼ばれるものが水の代わりにカニカマを張ったもの
そんなわけがない。
ここプースカ侯国ではそんな直線的なイメージが存在するはずがない。
そして一つ学んだことがある。
ここプースカ侯国は一見牧歌的だが、確かに「鉄則」が存在している。
それが何かは分からないが、法的なものではなく、国民の心の礎となっているのは間違いない。
この心の法とも言うべき「何か」を探さなければ、私は大臣に謁見どころか、下手をすると…。
私はその日、本当の意味でプースカ侯国に初めて入国したのだった。